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大阪地方裁判所 昭和53年(ワ)102号 判決

原告

井口岳キ

ほか二名

被告

有限会社赤山紙器工業所

ほか一名

主文

被告らは各自原告井口岳キに対し、金四七六万二、三三七円およびこれに対する昭和五二年二月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告井口岳キのその余の請求ならびに原告井口晴雄、同井口悦子の各請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告井口岳キと被告らとの間に生じた分はこれを三分し、その一を被告らの、その余を同原告の負担とし、原告井口晴雄、同井口悦子と被告らとの間に生じた分は同原告らの負担とする。

この判決は、原告井口岳キ勝訴の部分にかぎり仮に執行することができる。

事実

一  当事者の求める裁判

(一)  請求の趣旨

1  被告らは各自原告井口岳キに対し、金一、四五〇万円、原告井口晴雄、同井口悦子に対し、それぞれ金五五万円あて、および、右各金員に対する昭和五二年二月九日(訴状送達の翌日)から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言。

(二)  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

二  当事者の主張

(一)  請求の原因

1  事故の発生

イ 日時 昭和四九年一一月一三日午後〇時三〇分ごろ

ロ 場所 神戸市灘区徳井町四丁目一番二一号先道路

ハ 加害車両 普通貨物自動車(姫路四四さ六〇九五号)

運転者 被告赤山佳三(以下被告赤山という)

保有者 被告有限会社赤山紙器工業所(以下被告会社という)

ニ 態様 原告井口岳キがスケーターで進行中、被告赤山運転の加害車両に衝突されて転倒されたうえ、加害車両に轢過された。

ホ 傷害の部位、程度

(1) 肝破裂、右腎破裂、右副腎損傷、空腸損傷等

(2) 昭和四九年一一月一三日から昭和五〇年一月一三日まで(六二日間)兵庫県立こども病院に入院

昭和五〇年一月一四日から同年一二月一〇日まで同病院に通院

(3) 後遺症

昭和五〇年一二月一〇日症状固定

その症状は(1)胆のうを含む肝臓半切除(2)右腎臓切除(3)右副腎切除(4)空腸部分切除し、右手術施行後血清肝炎を併発し、肝機能障害のため治療中であつて、将来重症肝障害(肝硬変など)を発症する可能性がある。また、右腎切除を行なつているため、左腎に外傷あるいは何らかの障害をきたした場合、生命に危険を及ぼす可能性がある。将来過激なスポーツ、身体を使用する労働を行うことができず、肝機能障害が残る可能性がある。現在小学校に通学中であるが、授業時間中、たびたび用便に行かなければならない実情である。

2  責任原因

イ 被告会社は加害車両を保有し、自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により、原告らの被つた後記損害を賠償する責任がある。

ロ 被告赤山は、加害車両を運転し、時速約五キロメートルで西進中、自車左前方約八・五メートルに原告井口岳キ(当時五歳)がスケーターに乗つて東進してくるのを認めたが、同原告が思慮浅く不測の行動に出ることも予測されたのであるから、その動静に注意し、同原告との安全を確認して進行すべき注意義務があるのに、これを怠り、前方道路左端付近にいた横山忠世(当時四〇歳)の挙動に気を奪われたまま漫然進行した過失により、道路中央に向けて進行してきた同原告に自車左前部を衝突させて転倒せしめたうえ、同原告を自車左前輪で轢過したものであるから、民法七〇九条により、原告らの被つた後記損害を賠償する責任がある。

3  損害

イ 原告井口岳キの損害金一、九三八万〇、八七六円

(1) 逸失利益 金一、九八六万〇、八七六円

原告井口岳キの前記後遺症は後遺障害別等級表七級五号および八級一一号に該当し、同原告の労働能力喪失率はすくなくとも五六パーセント以上であるところ、同原告は現在七歳であるから、本件受傷による逸失利益は男子全年齢平均給与月額金一五万七、五〇〇円、労働能力喪失率五六パーセント、ホフマン係数一八・七六五として金一、九八六万〇、八七六円である。

(2) 慰藉料 金三〇〇万円

原告井口岳キの本件受傷の程度、とくに後遺症の程度、内容、その他諸般の事情に照らせば、同原告の精神的苦痛に対する慰藉料は金三〇〇万円をもつて相当とする。

(3) 損害の填補 金四一八万円

原告井口岳キは自賠責保険から金四一八万円を受領した。

(4) 弁護士費用 金七〇万円

原告井口岳キは本件訴訟の提起と追行を訴訟代理人である弁護士清水賀一に委任し、着手金三〇万円を支払い、謝金四〇万円を支払う旨約した。

ロ 原告井口晴雄の損害 金五八万〇、二四八円

(1) 治療費 金三万〇、二四八円

原告井口岳キは、前記後遺症のため、兵庫県立こども病院において内臓とくに残存している左腎臓の精密検査を受けているが、原告井口晴雄は右検査費用として同病院に金三万〇、二四八円を支払つた。

(2) 慰藉料 金五〇万円

原告井口岳キは本件事故により前記傷害を受け、前記のような後遺症を残したが、そのため、将来成長しても、いつ突発的に生命の危険があるやも知れず、原告井口晴雄は父親として日夜心労を重ねているのが実情であるから、その精神的苦痛に対する慰藉料は金五〇万円をもつて相当とする。

(3) 弁護士費用 金五万円

原告井口晴雄は本件訴訟の提起と追行を訴訟代理人である弁護士清水賀一に委任し、着手金二万円を支払い、謝金三万円を支払う旨約した。

ハ 原告井口悦子の損害 金五五万円

(1) 慰藉料 金五〇万円

原告井口晴雄と同一理由により原告井口悦子の慰藉料は金五〇万円をもつて相当とする。

(2) 弁護士費用 金五万円

原告井口悦子は本件訴訟の提起と追行を訴訟代理人である弁護士清水賀一に委任し、着手金二万円を支払い、謝金三万円を支払う旨約した。

4  結論

よつて、被告ら各自に対し、原告井口岳キは前記損害金合計金二、三五六万〇、八七六円より損害填補額金四一八万円を控除した金一、九三八万〇、八七六円のうち金一、四五〇万円、原告井口晴雄は前記損害金合計金五八万〇、二四八円のうち金五五万円、原告井口悦子は前記損害金合計金五五万円および右各金員に対する昭和五二年二月九日(訴状送達の翌日)から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(二)  請求の原因に対する答弁

1  請求原因第1項中イないしニは認めるが、ホは不知。

2  同第2項のイ中、被告会社が加害車両を保有し、自己のために運行の用に供していたことは認めるが、その余は争う。

3  同第3項中イの(3)は認めるが、その余は争う。

(三)  抗弁ならびに主張

1  過失相殺の主張

被告赤山は、幅員約七・五メートルの道路の左側に加害車両を駐車するべく、横山忠世の指示により、時速約五キロメートルの低速で加害車両を運転していたところ、原告井口岳キがスケーターに乗つて加害車両に対向して、その約二メートル余り離れた左側を走り去つたのを認めたが、何らの危険性を予見せしめるものがなかつたので、同一速度で進行中、走り去つた原告井口岳キが急転回し、ゆるやかに左側によつて行つた加害車両に接触し、その車両の下に巻きこまれる状態になつて、本件事故が発生したのである。したがつて、被告赤山としては本件事故は予測不可能なことであつて、仮に被告赤山に過失が存するとしても、被害者側の過失は重大であるというべく、割合的には、七〇パーセント相当の過失があると考える。

2  弁済の抗弁

被告らは、本件に関して左記の弁済をしている。

(一) 治療費 金一八三万七、七三二円

原告井口岳キの治療費として西外科病院および県立こども病院に対し、被告らは合計金一八三万七、七三二円を支払つた。

(二) 見舞金 金一五万円

被告らは原告井口晴雄に対し、本件事故に対する見舞金として金一五万円を支払つた。

(三) 自賠責保険金 金四一八万円

原告井口岳キにおいて自認するとおり、同原告は自賠責保険から金四一八万円を受領した。

以上合計金六一六万七、七三二円が弁済されているから、損害額から控除されるべきである。

(四) 抗弁ならびに主張に対する答弁

1 過失相殺の主張について

争う。本件事故は被告赤山の一方的過失に基因するものであつて、被害者側に何らの過失もない。

2 弁済の抗弁について

(一) 治療費を被告らが支払つた事実は認めるが、被告ら主張の金額は知らない。

(二) 見舞金一五万円を原告井口晴雄が受領したことは認める。

(三) 自賠責保険金四一八万円の受領は認める。

三  証拠〔略〕

理由

一  事故の発生について

請求原因第1項イないしニは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第六号証、第八号証、第二号証ないし第一三号証、第一五、一六号証、乙第一号証の一ないし七、原告井口晴雄、被告赤山佳三各本人尋問の結果によれば、本件事故現場は、幅員約四〇センチメートルの路側帯によつて北側の幅員が約一・六メートル、南側の幅員が約五・五四メートルに区分された東西に通ずるアスフアルトで舗装された直線、平坦かつ乾燥した道路であつて、駐車禁止の場所であり、交通量は一分間に五台であること、被告赤山が右道路北側の路側帯にまたがつて加害車両を駐車したところ、友人の横山忠世(当時四〇歳)の指示により、右道路の南側に駐車するべく、加害車両を運転して東進したうえ回転し、時速約五キロメートルで右道路を西進中、左前方約二一メートルないし二二メートルの位置で加害車両の駐車位置を指示する横山忠世とその傍でじやれるようにしていた原告井口岳キ(当時五歳)を認め、さらに西進したところ、同原告がスケーターに乗つて自車左前方約八・五メートルのところに東進してくるのを認めたのであるが、同原告が思慮浅く、不測の行動に出ることも予測されたのであるから、その動静に注意し、同原告との安全を確認して進行すべき注意義務があるのにかかわらず、これを怠り、前記位置において駐車位置を指示する横山忠世の挙動に気を奪われたまま漫然進行した過失により、右道路左端から転回するべく道路中央に向け進行してきた同原告に自車左前部と衝突させて転倒させたうえ、同原告を自車左前輪で轢過したこと、原告井口晴雄、同井口悦子は、原告井口岳キが当時五歳であつたのにもかかわらず、日項本件事故現場付近で遊ぶのを格別危険を感ずることもなく放置していたものであるが、本件事故発生当時も、原告井口岳キが本件事故現場である道路上で遊んでいたところ、たまたま知人の横山忠世を認めたところから、スケーターに乗つて同人の傍で遊んでいるうち、加害車両に対向して東進しようとしたので、同人が「危いから、そつちへ行つたらいかん」と制止したのであるが、そのまま右道路南側を東進し、転回するべく道路中央に向けて進行した際、西進してきた加害者の左前部と衝突して転倒し、加害車両の左前輪で轢過されたこと、以上のとおり認めることができ、前記甲第一二号証、乙第一号証の四、被告赤山佳三本人尋問の結果中、右認定に反する部分は採用できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。そして、成立に争いのない甲第二号証、原告井口晴雄本人尋問の結果によれば、原告井口岳キは、本件事故により、肝破裂、右腎破裂、右副腎損傷、空腸損傷、出血性シヨツク、血清肝炎の傷害を受け、昭和四九年一一月一三日から昭和五〇年一月一三日まで(六二日間)兵庫県立こども病院に入院し、同月一四日から同年一二月一〇日まで(実通院日数三三三日間)同病院に通院し、その治療を受けたが、同日、症状固定し、その後遺障害の程度および内容は、(1)胆のうを含む肝臓半切除、(2)右腎切除、(3)右副腎切除、(4)空腸部分切除の手術施行後血清肝炎を併発し、肝炎は軽快にむかつているが、将来重症肝障害(肝硬変など)を発症する可能性があり、右腎切除を行なつているので、左腎に外傷あるいは何らかの障害をきたした場合、生命に危険を及ぼす可能性があること、その予後の所見は、将来過激なスポーツ、身体を使用する労働を行なうことができず、肝機能障害か残る可能性があること、以上のとおり認めることができる。

二  責任原因と過失相殺について

請求原因第2項イ中、被告会社が加害車両を保有し、自己のために運行の用に供していたことは当事者間に争いがないから、被告会社が自賠法三条により、原告井口岳キの被つた後記損害を賠償すべき責任があることは明らかであり、また、前記認定事実によれば、被告赤山が民法七〇九条により、原告井口岳キの被つた後記損害を賠償すべき責任があることも明らかである。しかしながら、前記認定事実によれば、原告井口岳キが横山忠世の制止にもかかわらずスケーターに乗つて加害車両に対向して東進し、転回しようとして本件事故に遭遇したことからも窺われるように、本件事故現場である道路は、その交通量が一分間に五台であつて、当時五歳であつた原告井口岳キがスケーターに乗つて遊ぶ場所としては、かなり危険であるといはなければならず、親権者である原告井口晴雄、同井口悦子としては、原告井口岳キがかかる危険な道路上で遊ぶことを制止すべきであつたのにもかかわらず、日頃格別の危険を感ずることもなく放置していたものであつて、本件事故発生当時も、これを放置していた点について、被害者側の過失も本件事故発生の一因をなすものというべきであるから、原告井口岳キの後記損害額を算定するについて、これを斟酌するべく、その過失割合は被告赤山のそれを八〇パーセント、被害者側のそれを二〇パーセントと認めるのが相当である。

三  損害について

(一)  原告井口岳キの損害について

(1)  治療費 金一八六万七、九八〇円

成立に争いのない甲第一八号証の一ないし六、乙第二号証の一ないし三、原告井口晴雄本人尋問の結果によれば、原告井口岳キは、本件事故により前記認定のような傷害を受け、前記認定のとおり、兵庫県立こども病院において入通院治療を受けたほか、本件事故当日、西外科病院においても入院治療を受けたものであつて、症状固定後も兵庫県立こども病院において後遺症の通院治療を受けているところ、昭和四九年一一月一三日より昭和五〇年九月三〇日までの兵庫県立こども病院における入通院治療費として金一六四万九、一六二円、昭和四九年一一月一三日の西外科病院における入院治療費として金一八万八、五七〇円、兵庫県立こども病院における後遺症の通院治療費として金三万〇、二四八円、以上合計金一八六万七、九八〇円の治療費を要したことが認められる。

(2)  逸失利益 金七七五万七、一〇七円

前記認定事実によれば、原告井口岳キは昭和五〇年一二月一〇日症状固定し(同原告は昭和四四年七月一二日生れであるから、当時満六歳である。)、その後遺症状は、手術施行後併発した血清肝炎は軽快にむかつているが将来重症肝障害(肝硬変など)を発症する可能性があり、また、右腎切除を行なつているので、左腎に外傷あるいは何らかの障害をきたした場合に生命に危険を及ぼす可能性があるところから、将来過激なスポーツ、身体を使用する労働を行なうことができず、肝機能障害が残る可能性があるというのであるが、同原告の年齢から考えて今後の教育、訓練、職種のいかんによつては将来後遺障害に順応することも不可能ではなく、その労働能力喪失率、喪失期間の評価については、右後遺症状の内容、程度にかんがみ、一八歳から六七歳まで、四〇パーセント労働能力が喪失するものと認めるのが相当である。ところで賃金センサス昭和五〇年第一巻第一表産業計企業規模計の男子労働者の「一八~一九歳」の平均月間きまつて支給する現金給与額は金七万七、三〇〇円、年間賞与その他特別給与額は金一二万七、一〇〇円であるから、これを基礎として同原告の逸失利益を算定すると金七七五万七、一〇七円となる。

77,300円×12+127,100円=1,054,700円

1,054,700円×0.4=421,880円

421,880円×18.387=7,757,107円

(1) 就労の終期(67歳)までの年数61年(67年-6年)に対応する新ホフマン係数27.602

(2) 就労の始期(18歳)までの年数12年(18年-6年)に対応する新ホフマン係数9.215

(3)  適用する係数 18.387(27.602-9.215)

(3)  慰藉料 金三五〇万円

原告井口岳キの本件受傷の部位、程度、入通院期間、後遺症の程度、内容、その他諸般の事情に照らせば、同原告の精神的苦痛に対する慰藉料は金三五〇万円をもつて相当と認める。

(4)  過失相殺

前記認定のとおり、原告井口岳キの損害額を算定するについて、被害者の過失も斟酌するべく、その過失割合は、被告赤山のそれを八〇パーセント、被害者側のそれを二〇パーセントと認めるのが相当であるから、原告井口岳キの損害額は、前記(1)ないし(3)の合計額金一、三一二万五、〇八七円の八〇パーセントに相当する金一、〇五〇万〇、〇六九円である。

(5)  損害の填補 金六一六万七、七三二円

前記乙第二号証の一ないし三と弁論の全趣旨によれば、被告赤山は、前記(1)の治療費金一八六万七、九八〇円のうち兵庫県立こども病院に対する治療費金一六四万九、一六二円、西外科病院に対する治療費金一八万八、五七〇円合計金一八三万七、七三二円を支払つたこと、成立に争いのない乙第三号証によれば、被告赤山は本件事故により原告井口岳キが受傷したことに対する見舞金として金一五万円を支払つたことがそれぞれ認めることができ、原告井口岳キが自賠責保険から金四一八万円を受領したことは当事者側に争いがないから、損害の填補額は合計金六一六万七、七三二円である。

(6)  弁護士費用 金四三万円

原告井口岳キの請求し得べき損害額は、前記過失相殺後の損害額金一、〇五〇万〇、〇六九円から損害の填補額金六一六万七、七三二円を控除した金四三三万二、三三七円となるところ、同原告は本件訴訟の提起と追行を訴訟代理人である弁護士清水賀一に委任し、弁護士会所定の報酬基準に則り報酬を支払うことを約したことが成立に争いのない甲第四号証により認めることができるから、本件訴訟の難易度、審理の経過にかんがみ、弁護士費用は金四三万円をもつて相当と認める。

(二)  原告井口晴雄、同井口悦子の損害について

(1)  原告井口晴雄の治療費金三万〇、二四八円について

原告井口晴雄は、原告井口岳キの後遺症治療のため兵庫県立こども病院に支払つた金三万〇、二四八円を原告井口晴雄の損害と主張するのであるが、右は原告井口岳キの後遺症治療のため要した費用であつて、前記原告井口岳キの治療費金一八六万七、九八〇円のうちに計上したものであるから、原告井口晴雄の損害とは認めない。

(2)  原告井口晴雄、同井口悦子の慰藉料について

被害者が死亡した場合に比肩しうべき、または被害者が死亡した場合に比して著しく劣らない程度の精神的苦痛を近親者が被つた場合には、民法七〇九条、七一〇条に基づいて自己の権利として慰藉料を請求し得るものと解すべきであるけれども(最判昭和四三年九月一九日判決参照)、前記認定の原告井口岳キの受傷、後遺症の程度、内容、治療経過等に照らせば、原告井口晴雄、同井口悦子が自己の権利として慰藉料を請求できる程度の精神上の苦痛を受けたものとは認められない。

(3)  原告井口晴雄、同井口悦子の弁護士費用について

原告井口晴雄、同井口悦子の損害が認められない以上、同原告らの弁護士費用も損害とは認められない。

四  むすび

よつて、原告井口岳キの本訴請求は、被告らに対し各自金四七六万二、三三七円(請求し得べき損害額金四三三万二、三三七円と弁護士費用金四三万円を加算した金額)とこれに対する昭和五二年二月九日(訴状送達の翌日が昭和五二年二月九日であることは本件記録によつて明らかである。)から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当であるから、これを認容すべきであるが、その余の請求ならびに原告井口晴雄、同井口悦子の本訴各請求はいずれも失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 阪井昱朗)

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